新作歌舞伎脚本
       
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日 高 川 濡 髪 縁 起(ひだかがわ ぬれがみえんぎ)   羽 生   榮
                       
                                             あらすじ
道成寺は安珍・清姫の話で名高いが、実はそれは中世以後出来た話であるらしい。江戸の頃、道成寺の絵解きをする僧が、ある日いわくありげな絵巻を寺の蔵で見付ける。埃だらけの絵巻を開いてゆくと、そこには不思議な話が描かれてあった。

 七世紀後半、白鳳の頃の話である。藤原京の宮中の木に、雀が不思議な巣をかけた。長い女の髪の毛が、その巣より出て来たのであった。巻き取って春宮の御覧に供すると、その余りの見事さに、この髪の女人を召したいと宣う。早速全国に遣いが出される。
紀道成(きのみちなり)も自国の海村より美しい髪の乙女を見付ける。どうやらその娘が黒髪の主であるらしかった。娘の髪には奇しき物語が絡んでいたからである。

 娘は
海女(あま)の子で、ある日母が潜って拾って来た黄金の小仏像の霊験で、丈成す黒髪を得たのであった。その仏は唐より我が国へ贈られた宝で、難破した船が積んでいたものだったことが分かり、国へ返すこととなり、娘も宮中へあがることになった。春宮(後の文武帝)は殊の外この娘(宮子姫)を寵愛する。宮子姫は嬪や官女の嫉視と悪意にさらされ、皇子誕生によってそれは頂点に達し、宮子は徐々に神経を病んでゆく。

 右大臣藤原不比等にも、「玉」さえ手に入れば宮子は邪魔でしかなかった。
ようやく自分の愚かさを知った道成は、里の男たちに宮子を救出させる。故郷で養生し元気を取り戻す宮子。
帝や道成、僧義淵の労りによって黄金仏を祀る寺が出来るという時、用材の筏流しで道成は水死する。そこには密かな愛の想いがあったのだが。ショックで病いがぶり返す宮子。
 
新しい寺(道成寺)で養生する日々、宮子の元へ息子・首皇子が十四年振りに会いに来る。我が子を独占したさに、宮子は皇子を釣鐘の中に閉じ込める。折から皇子の立太子の宣旨がもたらされる。母は夜叉となり、鐘を微塵に砕き、皇子を鐘より出だす。其処には光り輝く皇太子・首の姿があった。人々に祝福される我が子(後の聖武帝)の姿だった。

 絵巻を見てゆく僧二人は、妖気を発するこの絵巻に悩まされながらも、狂言回しとなりこの絵巻を紹介してゆくのである。 


(一場)(道成寺絵解き場
(二場)(饗応御殿清めの場
(三場)(絵巻虫干しの場
(四場)(()海士(あま)の里
(五場)(絵解き場
(六場)(皇子誕生の場
(七場)(姫苛めの場
(八場)(絵解き場
(九場)((ぬえ)現るの場
(十場)(絵解き場
(十一場)(九海士八幡宮の場
(十二場)(三百瀬の場
(十三場)(絵解き場
(十四場)(夜叉の場


                                
             日高川濡髪縁起(ひだかがわぬれがみえんぎ)     羽生 榮

(一場)(道成寺絵解き場)
     頃は江戸の中葉、処は紀の国日高川畔の道成寺。
     舞台前面に道成寺縁起絵巻の大きく画かれた巻物が載る組物一架、無人ながら今しも
     絵解談義の終わりし心にて、下手の方にて信者を送り出す大きな声聞こえる。
     後ろは一面の黒幕。やおら下手より寺僧一人出で来たり、揉み手をしつゝ独りごつ。

寺僧一  さてさて昼の御奉仕も滞りなく済んだ。
遅昼(おそびる)など取らばや。(絵巻を巻く)
     
トそこへ上手から寺僧二出で来て、
寺僧二 ヤア勤仕はお済みなされしか。
寺僧一 今日はえらくお尋ねが多うて疲れました。安珍さんは無事に成仏出来たのかなどと
    聞かれて困りました。慥かに臨終の正念も鐘の中で焼かれてしもうたからのう。
    (絵巻を巻く手を止めて)なんぞ愚僧に御用かの?
寺僧二 実はな、今さっき御寺のお蔵より不思議な箱が見付かって、蓋には「秘巻之縁起」とな。
    御住持にお届け申し開けて見たれば、それはそれは髪の長い裸のおんなが・・・・・・
    オットアワワ、
      (口を押さえる)
寺僧一 エエ、裸の女とな?
寺僧二 埃の中から裸の女・・・・・・。
寺僧一 秘巻の縁起てや?
寺僧二 そうじゃ、そうじゃ。
寺僧一 さてこそ、それは目覚ましい。実はいつも語る折、口では語れど絵のない所があって
    なア、不思議 不思議と思えどもそのまま語っておったのじゃ。
    ひょっとすればその所が描いてあるやも知れんなア。これは一見せずばなるまい。
    こりゃこうしては居られぬわい。(急いで巻き取る)
寺僧二 裸の女、裸の女じゃぞ。
     ト二人、そそくさと絵巻を巻いて組物畳み上手へ運び入る。
      
         (後ろ黒幕落とす)                   



(二場) (饗応御殿清めの場)

      ───箏の曲流れる─── 

     頃は遡って白鳳、持統十一年(六九七年)の早春。
軽皇子(かるのみこ)(後の文武天皇)の立太子後の 
     藤原京宮殿。中央に屋台にて殿舎。
()の子を廻し正面に広き階。前庭は園生の植栽ありて、
     下手に小高き一本の樹木見ゆ。(曲が遠のくと鳥の声)下手より
雑色(ぞうしき)四、五人出でて、箒持
     ち来て清掃す。上手の簀の子より官女二人ゆるりと出づ。

官女一  明日は新羅よりの御使者御饗応にて、
当今(とうぎん)春宮(とうぐう)様方もお出まし遊ばさるる。
    今日た清めの人数出でて内外粗相なきよう整えらるる。御二方様お成りのこのお広敷に、明
    日は
(みめ)様方もお出張りなされ又となき華やぎ。されども同じみ位の嬪様方ゆえ又々お席次争
    いがあることよ。それを思えば、頭の痛いことじゃなア。
官女二 ほんになア、殊に
紀伊国(きのくに)よりお上りなされし竈門姫(かまどひめ) 様と、石川の大臣(おとど)のお娘御・刀子姫(とねりひめ)
     様は、何れを
菖蒲(あやめ)杜若(かきつばた)。我こそは春宮様のお恵みを得んとて、何とも熾烈なお争い。
官女一 我が方へお渡りを給わらんと、皇子様付きの我々にまで、どっさりと心付けやら何やら
   ・・・・・・。お陰でたんと潤いまする。
官女二 先刻も我が局にて双方のお使いが差し合い、一波乱あったばっかり。
     ト下手の木に懸巣ありて、雑色ども取らんとして騒ぎいる。
官女一 何の騒ぎじゃ、騒々しい。
雑色イ (一礼し)どうやら鳥が巣を懸けましたようで。取り除くところにござりまする。
     ト笹竹で突くを右じゃ左じゃと皆が騒ぎ立てる。トド、
雑色たち アッ、落ちた、落ちた。
     ト巣が落ち雀が飛び立つ。皆落ちし巣に走り寄る。(鳥鋭く鳴く)
雑色ロ (拾い上げて) 何じゃい、この巣は。いやに黒々して気味が悪いぞ。
雑色イ ドレドレ 、(覗き込み)ヤヤッ、これは髪の毛、髪の毛で出来ている巣じゃ。
    (細いものを抓み上げ、スルスルと伸ばす)ヒエーッ、何じゃこの長さは・・・・・・
    
二尋(ふたひろ)はあるぞよ。
     ト官女一・二も階を降り来て、
官女一 ほんにほんに、髪の毛じゃ。なんとマア 伸びも伸びたり。この黒髪の太うて艶のあることよ。
    長さといい、どんな
女子(おなご)のものかいなア。(抓んで透かし見る)
雑色ハ (木の梢を指さして)
何処(いずこ)かのお(むす)のものを、雀の奴が銜え来て、巣の資本(もとで)にしたのじゃなア。
     ト皆ワイワイ騒ぐ。そこへ庭の上手より、見るからに大柄な
橘三千代(たちばなのみちよ)(女官長・軽皇子の
     
乳母(めのと))供の官女五人ばかり引き連れ出づる。
三千代 何事ぞ、お庭のお掃除も半ばというに・・・・・・。(と言いながら、舞台正面に来て)
    急に何かに引っ掛かって藻掻く仕種す)ヤヤヤヽヽッ。
雑色イ アレ、お局様、お危のうございまする。
雑色ロ 
乳母(めのと)殿が、
一同  引っ掛かったア・・・・・・。
三千代 ナナ、何じゃこれは・・・・・・。(しげしげと手に受けて見る)
雑色イ これは雀の巣に入りおりました髪の毛、二尋もござりまするよ。
三千代 フーム、何とも長き髪じゃわい。
     ト吟味の体。官女連も集まり、己れの髪と長さ比べなどしおる。そこへ、殿上
     の上手より淡海公(たんかいこう)(藤原
不比等(ふひと))、随従の殿上人ら引き連れて現れる。高欄の上まで来て、
淡海 何事やある、騒々しい。
一同 アッ、
右府(うふ)様のお出ましじゃ。
     ト一同
(ひざまづ)く。雑色二人、階の下にて髪の毛を伸ばし持ち、
雑色ロ 雀の巣を落としましたる所、かような長き髪が出でましてござりまする。直ぐに片付け
    ますれば・・・・・・。
淡海 (階の下まで降り来て)マア待て。(手に受けて)フーム、このような
女子(をなご)が世にあろうとは
   ・・・・・・。(思い入れあって)お籠り明けの春宮に、フフ、又となきお慰めものやも知れぬ。
   お目にかけてみようかのう、なア乳母殿・・・・・・。
三千代 (大きく頷き)それは妙案にござりまする。春宮様には近頃お気先も勝れ給わず、若菜摘
    みにもお出かけ遊ばされずましますれば・・・・・・。皆の者、拭うて何ぞに巻き取るがよい。
官女たち ハハア。
     ト女たち一礼し、髪を懐紙で挟み拭う仕種。
三千代 ホレ、その辺りに未だ残りおろう初春の縁起物・
振振(ぶりぶり) にでも巻き取るがよかろう。
     ト女たちの拭う間に、雑色が下手より
振振(ぶりぶり)毬杖(ぎつちよう)(木槌の形をした玩具)を持ち来たる。
    皆で囃しつゝ、
一同 ホレ切るな、絡ますな。
     ト巻いてゆく。
三千代 (奉られた振振を翳し)オオ、これは見事なる献上品。春宮様もさぞお気が晴れよう。
     トその時、「お成り―い」「シ―ッ」と
警蹕(けいひつ)の声。皆平伏。
     広間の奥、一段高き御簾うちに、侍従・近習を従え、春宮・軽皇子の出御。
     着座の胸辺りまで御簾にて隠れる。淡海・三千代、御簾の前の左右に着座し平伏。
     (
越天楽(えてんらく)の曲)
三千代 春宮様には清めの騒がしさ、お許しなされてくださりませ。お庭も美しうなりまし
    たれば、明日の御接待も滞りなく行われましょう。実は今しがた、お庭にかような
    珍物が、小鳥の巣より出でましてござりまする。お慰めにもなろうかとお側まで
    差し上げまする。
     ト三千代より近習へ手渡す。お側の者が左右に伸ばし、皇子の扇がそれを受ける。
     皆平伏。
侍従 (重々しく)春宮様の御言葉にござりまする。この美しき髪の乙女を探すべしとの
御諚(ごじよう)
     にござりまする。
一同 ハハ―ッ。
     ト平伏。しかし驚きと戸惑い。
淡海 (すかさず重々しく)
綸言(りんげん) 汗の如しじゃ。皆の者、急ぎ勅使を立て、王畿(おうき) の内外に隈なく人を
   遣わして、この美しき髪の人を求めしめよ。殿上人ら ハハ―ッ。(平伏)
     ト越天楽の曲と共に春宮退出。随従の者らも去り、官女・雑色らは庭を片付けて去る。
     淡海・三千代の二人となる。
三千代 
日並知皇子(ひなめしのみこ)(草壁皇子)様(みまか)られし後、いとけなき軽皇子様を右府様と共に一心にお(はぐく)
    いたし、当年ようよう
日嗣(ひつぎ)皇子(みこ)にお立て出来ましたは、何とも嬉しき御事に存じ上げます
    る。さりながら先頃より眉目良き
御方(おんかた)を幾人とのうお側へ差し上げますれど、今もって特
    段のお慈しみもなき御様子。日夜お世継御誕生を待つ身には、まことに肝の煎るゝ日々に
    ござりまする。畏れ多くも御祖母様の
当今(とうぎん)(持統女帝)も、ひそかに大御心(おおみごころ)をお痛めにござ
    りまする。もし幸いにこの髪長き何処ぞの姫君が見付かれば、お側に近う
(まい)らせて御寵愛
    を得させたきものよ。何としてもその花を、
内苑(だいえん)に移したきものにござりまする。
淡海 まことにそうありたきもの。
     トそこへ
紀道成(きのみちなり)、殿上上手より出で淡海の前に平伏し、
紀道成 右府様にお伺い申し上げまする。昨日お使いが参られまして、今夕お渡りとの由にござり
    まするが、お待ち申し上げてよろしゅうござりましょうか。
淡海  さてさて如何なものか。紀の姫君にお渡りの日ではあるが・・・・・・。先ほどのゴタゴタが
    上にも聞こえて、お気先も勝れぬようじゃ。したがこの(振振を翳して)黒髪の主には
(いた)くみ心
    を動かし遊ばしたのう、
乳母(めのと)殿。
三千代 ほんに左様でありましたなア。
道成 先ほど奥にて漏れ承りますれば、何か面白きお話がありましたそうで。
淡海 雀がな、あの木に巣を懸けてな、それが女の髪で出来ておったのじゃ。(振振を渡す)
道成 それは又異なこと・・・・・・。(受け取って見入る)
淡海 それを又春宮様が
(きよう)がられてな、その女子(おなご)を召したしと・・・・・・。
道成 何と・・・・・・。
淡海 今、五畿七道に遣いを出だすよう命じたところじゃ。
道成 (しげしげと振振を眺め、フト思い入れして)実は、我が
故郷(ふるさと)紀伊国(きのくに)日高(ひたか)(こほり)九海
   士の里に、丈なす黒髪の主がおりますそうな。その娘は
海女(あま)の娘なれど、その母が申します
   るには、
五年(いつとせ)ほど前の或る日、海中に光る物を見付け、水に(かず)きますると、一寸八分の黄金(こがね)
   の仏像が海の底にありましたそうな。それを拾い上げ、岬の岩屋に祀りましたところが、或る
   夜夢に観世音が現れ、礼に何なりと叶えんと申されしと。
()(おみな)は一女を持っておりまする
   が、不幸にも髪の薄い娘でありましたそうな。その子に緑の黒髪をと願ったそうにござりま
   する。観音は「我が手に絡みし海藻を食さば、丈なす黒髪とならん」と申されて消えたそう
   にござりまする。夢覚めし後その仏をよく見ますると、確かに仏の
御手(みて)に藻が絡んでおりま
   したそうな。それを娘に食させますると、アラ不思議やな、日ならずして丈なす黒髪になっ
   たという話にござりまする。
淡海 
黄金(こがね)の仏像とな?ウーム。(思い入れあって)それこそ二十余年前、唐国(からくに)より我が国へ献上
   されたる三つの珍宝の一つならんか。その三つは
華原磬(かげんけい)泗濱石(しひんせき)、今一つは閻浮檀金(えんぶだごん) の千手
   観音じゃ。先の二つは無事届きしに、黄金の仏のみは海に沈みしと。淡路の沖にて大風に遭
   い紀伊の辺りへ流されて難破せし船に積まれし宝じゃったそうな。み仏はその折に
果敢(はか)なく
   なり給うたのじゃ。九海士の里とはその辺りなるか。
道成 さてはそのみ仏やも知れませぬなア。そのみ仏を祀りし折より、村は大漁、娘の潜きの獲物も
   多く、村ではそのみ仏と仏の申し子の娘とを、大層
(あが)めておりますそうな。
淡海 不思議な
功徳(くどく)もあったもの。
道成 その娘は
髪長(かみなが)とはなったものゝ、海女の娘にござりますれば、今も毎日海へ出て元気に(かず)
   いておると村の
(おさ)の話にござりまする。母は髪を菩提薩埵(ぼだいさつた)の賜りものじゃと有難がり、(くしけづ
   落つればその一本だに
(おろそ)かにせず、木の枝に懸けて人に踏ませじといたしおるそうに
   ござりまする。それを鳥が銜え取り、遙かな都へ運び来て、
齋庭(ゆにわ)に等しきこの禁苑に
   巣を営んだのでござりましょうか。思うに奇縁にござりまする。
淡海 なればそなたも
便(びん)を得て急ぎ故郷へ立ち帰り、そのみ仏と娘御を、この都まで連れて来やれ。
   他ならぬ春宮様のお望みなのじゃ。
道成 ハハーッ、畏まって候。(平伏す)
     ト小鳥の囀りのうちに道成の翳す振振の黒髪が急に発光する。


       (暗転)                          最上段へ



(三場)  (絵巻虫干しの場)
     後ろ一面の黒幕。前面に秘巻の絵巻が懸かる横長の大きな書架。二人の寺僧が絵巻を
     そろりそろりと右へ巻取りながら絵巻を眺めている。

寺僧一 小鳥の巣から長き髪の毛。不思議なこともあったもの。
寺僧二 さてさて、この女人は見付かったのかな。それにしても黴と埃で、ゴホン、ゴホン・・・・・・。
    (咳込む)
寺僧一 まだ五本ほどあるからに、今日はこの一本を虫干しと思うて見て行こうぞ。
寺僧二 それがよい、それがよい。アッ、風じゃ、アレ、飛びそうじゃッ。
    (周章てて絵巻を押さえる)
寺僧一 ヒャア。
     ト突風に絵巻飛ぶ。寺僧二の手の先に旗のようにはためいて、
寺僧一 離してはならぬ、離しては・・・・・・。
寺僧二 ヒャア。(風に煽られ、絵巻と共に上手へ入る)
寺僧一 (空を見上げて)秘本のせいか。風に心のあるような・・・・・・。(書架倒れる)
    (暗転と共に寺僧一も入る)
    (黒幕切って落とす)                       最上段へ 



(四場) ()海士(あま)の里)
    紀伊国日高(こほり)
九海士(くあま)の里。舞台後方は海の景にて、前面は白砂の浜。上手後方に
    岬見ゆ。(波音と海鳥の声喧しく) 紀道成、馬にて従者引き連れ上手より出づる。
道成  故郷は何時来てみても懐かしい。南国の日の光り、
(うしお)の香り、都では得がたきものじゃ。
    したがこの度は重きお役目なれば心憂きことじゃ。
従者一 旦那様、何と仰せられまする。右府様より持ち帰るよう命ぜられたるみ仏も元はといえば
    お国のもの。又娘御も都に上れば大きに出世、双親も大喜びでござりましょう。
    お心安ういらせられませ。
道成  何を云う、よう考えても見よ。我は竈門(かまど)姫様付きなるぞ。もしその娘が春宮のお気に
    入りになったれば、我が立場はどうなるのじゃ。雀の巣の黒髪を見たばっかりに、不思
    議な気持に引き入れられ、つい口が滑ってしまい、余計な難儀を背負う羽目・・・・・・。
    心重いとはそういうことじゃ。
従者一 ナーニ、海女の娘ということにござりますれば、丈なす黒髪とは申せ、やはりむくつけ
    き女子に違いありますまい。御心配には及びませぬ。
道成  さもあろう。ともあれ会って見ることじゃ。(見晴らして)・・・・・・
九海士(くあま)の里は
    この辺りなるか。
従者一 左様にござりまする。
道成  してその女子は今如何いたしおる。
従者二 先ほど海に潜きに行き、未だ戻らぬそうにござりまする。
    ト向こうより、村の
長老(おさなる老人(老鷹(おいたか))と、逞しき九人の海士(皆黒き半臂(はんぴ)と脚絆、
    目尻と頬に青黒き
黥文(いれずみ)す)、揃いて来たる。一同花道の中途にて、道成主従に気付き、
老鷹 ヤヤ、はやお見えらしいな。皆の衆、急ごうぞ。
     ト小走りに皆舞台下手に来たり、ワラワラと膝をつき
(こうべ)を垂れ、
老鷹 中納言様、お戻りなされませ。
九海士人 お戻りなされませ。
道成 オオ、(馬より降り)
里長老(さとおさ)(じい)か。
老鷹 お健やかにいらせられ、恐悦至極に存じまする。
道成 そちも達者で何よりじゃ。
老鷹 御館(みたち)竈門(かまど)姫様はお
(つつが)なくお過ごしでござりましょうや。
道成 アア、恙なくお過ごしじゃ。
老鷹 未だお世継御誕生にはあらせられずや?
道成 その事よ、一向によき報せを持ち帰れぬわしを許せ。
老鷹 何を仰せられまする。これも
(えにし)なれば致し方もござりませぬ。
道成 今日た他でもない、書状にても報ぜしごとく、例の女子を一目見んとてやって来たのじゃ。
   それに海より出でしみ仏をも実見致し、間違いなくば都へ運び、朝廷へお納め致す所存で
   ある。先ずその娘に会いたきもの。
老鷹 ここに控えおりまするは、
(かみ)つ御代、神功皇后(じんぐうこうごう)につき随いし九人の武士(つわもの)、その者らが
   ここに住みつき、その
末裔(すえ)の猛き海士(あま)らにござりまする。又かの娘の縁に連なる者らに
   候。髪長の娘の父の名は
早鷹(はやたか)、母は(なぎさ)と申しまするが、娘は当年十八才。父母(ちちはは)も年寄り
   まして、今はその娘が一家を支える
稼手(かせぎて)にこざりまする。
道成 未だ
(ぬし)ある身ではないのじゃな?
老鷹 独り身ではござりまするが、母の拾いしみ仏へ、まるで妻のごとくに仕えおりまして     
   ござりまする。
道成 
奇特(きどく)な娘じゃ。
海士一 
漁夫(すなどり)の一人、猟夫(さつお)の一人も手が出せぬほど、清々(すがすが)しき娘にて。
海士二 ここな
女誑(おなごたらし)しも手が出せず。
     ト脇の男を肘で突く。
海士三 (小突かれて)面目なし。
     ト「ヤアヤアヤア」と皆笑う。
道成 聞くほどに会いとうなった。誰ぞ行って連れて参るがよい。
海士四 アレ、そう云うところへお(むす)が来るぞ。(皆振り返る)
     ト向こうより、濡れ髪を束ね、上は半臂の白襦袢(じゅばん)、下は赤き腰巻の娘小桶と
(やす)を抱えて
    小走りに出で来て、花道の中途で息を呑み、立ち
(すく)む。
宮子 (胸を抱き)アレ、恥ずかしや。向こうの入江で今一潜(ひとかづ)き、と思いしばかりに、このような
   
人数(にんず)に会うてしもうたわいなア・・・・・・。(身を揉みしゃがみ込む)
老鷹 (手招きして)娘よ此処へ来るがよい。毛ほども恥ずかしがるでない。お前の襦袢も腰巻も、
   何れも立派な仕事着じゃ。
(よろい)(かぶと)と変わりがあろうか。
宮子 そうは云うても・・・・・・。(モジモジす)仕方なし、こうでもせずば。
     トやにわに髪を解き、丈なす髪をグルグルと身に(まと)う。
一同 オオ、その髪、その髪。
     ト娘はやっと安らぎ顔に、皆の前へ来て(ひざまづ)く。
道成 その方じゃな、髪長と云うは。
宮子 この里のみの呼び名にござりまする。
道成
 面(おもて)を上げよ。
     ト道成、娘の顔の美しさに息を呑みやがて満足げに頷く。
老鷹 眉目(みめ)よき娘にござりましょう?
道成 なるほど・・・・・・。父も母もこの里の者なるか?
宮子 
(かか)様は(とと)様の後添えにて、私は都からお出でたお人の(たね)とか聞きまする。九海士八幡の宮司をな
   され、早うにみまかりし人の子故、
宮子(みやこ)と申しますそうな。私は母様の連れ子にござりまする。
道成 さもありなん。・・・・・・
面差(おもざし)しに京育ちの匂い。
宮子 アレ、私は京など存じない。
道成 父からの血であろう。(ひな)にも稀な眉目(みめ)よき娘。
宮子・・・・・・私に何ぞ御用でも?
道成 その髪を、もっと見せて呉れぬか。
宮子 これは仏様よりの賜りもの、我がものにはござりませぬ。
道成 一度長くして見せて呉れ。
宮子 じゃが、これを(ほど)かば裸も同然・・・・・・。
道成 大事ない、(脇へ)誰ぞ引出物の
被衣(かづき)を出だせ。
     ト従者二より、引出物の被衣が娘に渡される。
宮子 こげな美しい着物を下さるので?
道成 付けてみるがよい。
     ト宮子、襦袢の上へ着物を付け、髪を解き放つ。丈なす黒髪が海のごとくに拡がる。
一同 オオ、美しや。
道成 何と云う豊かな髪じゃ。なるほど
二尋(ふたひろ)はあるな。その上、玉の(はだえ)は日に焼けもせず・・・・・・。
宮子 潜きますれば日焼けは無縁じゃ。
道成 娘御よ、ひとつわしと共に都へ
(のぼ)らぬか。この紀伊国の御館の姫が、今を時めくお后様で
   あらるゝ事、おぬしも存じおろうな。お后付きの侍女として上らぬか。父母を喜ばせてみた
   くはないか。
宮子 エエ、何と云わるゝ。私は今、父様と母様のみ
(もと)にて日々潜いて幸せじゃ。
   又仏様にお仕え申し、何不自由なく暮らしております。
道成 さもあろうが・・・・・・。そのみ仏もどうやら先年お国の
御遣使(みつかい)が落としたる宝物である
   ようじゃ。都へ返すべきお宝なのじゃ。
宮子 エエ、お返しするのじゃと?
道成 一度そのみ仏を拝みたし。祀りおる岩屋まで
案内(あない)して呉りゃれ。
宮子 イヤじゃ、イヤじゃ。()られては仕舞じゃからな。
道成 盗らるゝとは何事ぞ。元来国の物なるぞ。仏もお前と共に都へ行くのじゃ。それなれば悲し
   くはなかろう。どうじゃ。(迫って)お前が都へ行かずとも、仏は貰ってゆくことになる。
   (迫って)サア、
宮子 サア、
道成・宮子 サアサアサア。
宮子 仏様とは別れともない。
道成 では行くか。サア、
宮子 サア、
道成 サア、決めるのじゃ。
宮子 (村の者らに)皆様お助け下さりませ。
老鷹 都へ上れば幸せ者。仏を独りやるのかやい。仏と中納言様に
()いてゆけ。
九海士人 やるのは淋しい、仏も娘も。
老鷹 いっそ仏に聞いてみろ。
九海士人 それがよい、それがよい。
     トその時、黄金の仏を持ちし従者、下手より現れ、
従者三 旦那様、一っ走り行って岩屋から、仏をお連れ申しました。御覧なされて下さりませ。
    (道成の前に捧ぐる)
宮子 アレ、私の仏様ッ、何と云う事をッ、
     ト被衣をかなぐり捨て、仏をひったくる。
宮子 私の仏様じゃッ。
道成 (仏を指差し)今見れば、
(まさ)しくそれは唐国(からくに)よりの閻浮檀金(えんぶだごん)のみ仏なり。その仏は貰ってゆく
   ぞッ。
宮子 アレー、仏様ァ・・・・・・。
     トペタリと座り、襦袢の胸に仏を抱きしめしまゝ、天を仰いで泣き出だす。
     長き髪が海の波のごとくに  波打つ。

             (暗転)                  最上段へ

  


 
(五場) (絵解き場)
    黒幕前の絵解きの場。僧二人掛けし絵巻を覗き込んでいる。

寺僧一 もう少し丁寧にお開きあれ。裏紙と付いておって破れそうじゃ。
寺僧二 此処は大事な場面ですぞ。道成殿はここでお
(むすに一目惚れか。
寺僧一 そうとは書いてないが。大方はそのようじゃなア。
寺僧二 赤き腰巻、白き肌。それに豊かな黒髪が・・・・・・。アア、これこそ弁財天。
寺僧一 オヤ、又雲行きが怪しいぞ。(空を見上げて)これを開くと邪魔が入る、開かすまいと
    邪魔が入るぞ。
     ト雷鳴と稲妻。
寺僧二 ヒェーッ、今度は雷神なり。桑原、桑原・・・・・・。
     ト二人、総てを抱えて上手へ駆け込む。
       (黒幕切って落とす)                  最上段へ




(六場)(皇子誕生の場)
    絵巻の前の場より一年後、軽皇子即位して文武帝となりし秋の宮中。平舞台にて殿中
    の広間。薄明のうちに時として雷鳴と稲光り。上手・下手よりランダムに官女数人走り
    出で、舞台中央で罵りやら談合やらの体。稲光りがその面憎き顔どもに当る工夫など
    よろし。やがて一頻りの騒ぎ収まり、お互いにヒソヒソ話となる。

    その時上手奥、上方の一角が丸く明るくなり、皆其処に気付き、てんでに指差し騒ぎ
    出す。その一角、殿舎の奥まりし
(つぼ)(しつらえにて、遠見に一組の男女(人形にて男は
    文武帝、女は宮子姫)の抱き合う景見ゆ。(太棹にて人形、愛を交わす)やがて人形消え、
    舞台中央に集まりし官女ら、それぞれ力なく坐す。

松の局(竈門姫方老女) 宮子と申すあの女が参りしより、とんとこちらの姫様へ御渡りが
           なく・・・・・・全くとんだ者が入って来たものじゃ。
竹の局(刀子姫方老女) 我が方への御渡りは
一年(ひととせ)も前じゃった。ほんに邪魔な女狐め。
梅の局(竈方) 何でも金の仏を持参して、
入内(じゆだい)せしと云うではござりませぬか。
      よっぽど
効験(あらたか)な仏らしゅうござりまする。
竹の局 そちらの紀伊中納言殿が、お国よりお連れ遊ばしたと云うではござりませぬか。
    竈門様に面当てではござらぬか。
松の局  海女の娘というからに、安心いたしおったところが、すっかり帝のお気に入り。今では
     右府様が御養女に遊ばされて、押しも押されもせぬ藤原の娘分。
歯軋(はぎし)りしたとてこちとら
    の歯が欠けるばかりじゃ。
竹の局 竈門様は、よう御立腹遊ばされぬことよのう、ホホホヽヽ。
梅の局 下手に手出し致すもならず、
腹癒(はらい)せに紀伊中納言より中宮大夫(だいぶのお役をお取り上げなされ
    しのみにござりまする。
藤の局(刀子方) 口惜しや、あのような賤しき娘に見返らるゝとは・・・・・・。
竈門姫方 何とかせねば・・・・・・。
刀子姫方 力を合わせてッ。
     トヒソ、ヒソと、頭を集めて話し合う。又薄明となり、官女らの黒き姿のみ右往
     左往す。そこへ高き一声、
(声)
皇子(みこ)様御誕生・・・・・・ッ。
     ト薄明のうち、一瞬人々の動き止まる。
松の局 何とした事じゃッ。
竹の局 海女が子を産んだとな?
     トやがて明るくなり、しかし騒ぎ続く。
松の局 (手で制して)ヤア、騒ぐな騒ぐな、
蛭子(ひるこ)かも知れん、水母(くらげ)かも知れん、
    海女の子じゃからな。
梅の局 きっとそうでござりまする。
松の局 とくと見てからの事。
梅の局 左様にござりまするな。
竹の局 そうだともッ。
     ト皆申し合わせて上手下手へ散る。

       (暗転)                       最上段へ 



(七場) (姫苛めの場)
    黒幕前の場。寺僧二人、上下(かみしも)の端に出でて、狂言回しとして語る。

寺僧一 (下手の僧に語りかけて)大変な騒動に巻き込まれましたなア、宮子姫となったばかりに
      ・・・・・・。
寺僧二 しかし藤家の娘とは、又激しき、
寺僧一 有為転変の、
二人 海女の娘じゃなア。
     トそれぞれ入る。(すぐ黒幕落とす) 前の場と同じ
(しつら)えの殿中。明るくなると、
     上手より紀道成、
(しお)れし姿にて現れる。疲れ顔に、(あずさ)の枝に結びし
     手紙を持ち、力なく坐す。
道成 今宵も御渡りの
御印(みしるし)のこの玉章(たまずさ)じゃが 宮子姫は御気先も勝れ給わず、お返しせよ
   とのお言いつけ。困ったことじゃ。
     ト下手より使番現れ、膝を突く。
使番 中納言様、ここにお出でなされましたか。只今、お国より人が参り、お目もじ致したき由。
   如何致しましょうや。
道成 名は何と?
使番 老鷹と申す老爺にござりまする。
道成 オオ、九海士の
長老(おさ)じゃ、此処へ通すがよい。(手紙を渡し)これはお返し申すように。
使番 ハハーッ、畏まって候。
    (下手へ入る)
道成 (独りごちて)
   やる事なす事
(いすか)(はし)、宮子姫の入内までは何とかこちらの手柄にて、
   大きに羽振りもよかったが、ハハ案に相違の御寵愛。
   竈門姫に責め立てられ、果ては役まで奪われて、行く宛もなき
(つかさ)のうち。宮子姫付
   きとなったれば、海女の手下じゃ手下じゃと、さんざんに蔑まれ・・・・・・されど宮子姫は天晴
   れじゃ。周りの悪意に耐えられて、帝に尽くさるゝそのお姿。帝の真のお心は(しん)以て
   姫より他になし。閻浮檀金のみ仏にも、日夜お勤め致されて、功徳も深き御寵愛。
   アレヨアレヨのそのうちに、御懐妊の兆しあって、月満ちたれば御出産。輝くばかりの
   
皇子(みこ)様にて、我れが身にも嬉しいには違いないが、仕掛けられたる針の(むしろ)
   我が身一つを持て余し、いっそ
故郷(くに)へ帰ろうか・・・・・・。
     ト向こうより老鷹が来るのを見て、
道成 オオ、老鷹、よう来やった。
老鷹 中納言様、お久しぶりにござりまする。 御壮健にて恐悦至極に存じまする。
道成 あんまり壮健でもないのじゃが・・・・・・ ハハハ、そちこそ変わりなく、老いてますます
   元気じゃな。
老鷹 恐れ入り奉りまする。あの御入内の折は、いこう御世話に相成りました。何でも先頃は
   皇子様御誕生との由、御目出度く喜ばしき限りにござりまする。
道成 そのことよ・・・・・・。宮子姫は右府様の御養女となられし上、不相応なる御寵愛にて、方々 
   よりの嫉妬・怨念。近頃は少々お心を病まるゝように見受けられ、何とも痛ましき限りな
   のじゃ。
老鷹 エエ、お心を病まるゝと・・・・・・。
道成 都の名うての祈祷師や、名僧の誉れ高き
義淵(ぎえん)僧正にお頼み申して、祈祷やら治療やら
   致しおるのじゃが・・・・・・。
老鷹 ハテ、それは困りましたな。
道成 わしも御館の姫より
(うと)まれ、中宮職(ちゆうぐうしき)()われし身、いま皇子様
   御誕生にて増々の風当たり。いっそ国へ退こうかと今考えておったところじゃ。
老鷹 ナント・・・・・・、そんな事とはつゆ知らず・・・・・・。(頭を垂れる)
道成 して爺は何用あって参ったのじゃ?
老鷹 実は九海士の里の変わりようを、中納言様にお伝えしに参りましてござりまする。
   宮子姫とみ仏の、光の消えし
所為(せい)なるか、お旅立ちのその後の、九海士の里は火が
   消えて、漁に出づれど獲物なく、潜きの貝も姿を消し、何とも
(こう)じ果てゝおりまする。
   村の衆も口々に、仏と娘の
()にし所為じゃと、わしらを責めに来ますのじゃ。
   何とかお二方を元通り村へお返し下されと、訴え旁々都の様子、探りに参った次第に
   ござりまする。
道成 村がそんなに変わったとは・・・・・・。したが今更元にはならぬ。皇子御出産の今よりは、
   国母(こくも)となるべき宮子姫。わしの身なればともかくも、国母様では簡単に()帰られぬ
運命(さだめ)
   じゃわい。又み仏も国のもの、そう簡単には返されまい。困った話を持って来たわい。
   (フト、上手を見やり)オットヽ、厄介な連衆が来たようじゃ、老鷹しばしあの陰へ・・・・・・。
     ト促して、二人奥の
衝立(ついたて)の向こう へ隠れる。
     其処へ上手より、赤子の泣き声と共に嬰児を抱きし宮子、髪ふり乱し走り出で、
宮子 オオ、ヨシヨシ、乳が足りぬか、お
(しも)が濡れたか。今乳をやるほどに・・・・・・。
     ト片手で乳を探り、出さんとする。 バタバタにて官女二、三人現れ、
官女一 お方様、
乳母(めのと)が致しまする、致しまする。
官女二 
(やや)さまをお渡し下され。
     トドヤドヤと官女ら現れ、赤子を引ったくり、次々と上手へ手渡してゆく。
宮子 アレ、私の赤さん、赤さん。(取り返えさんとする)
官女一 (
(なだ)めて)お方様、御安心めされ。お乳のたっぷりな乳母が、大勢控えております
    ほどに。
官女二 お大切なる皇子様を、何で粗末にいたしましょう。
官女一 特に当年御出産の、三千代様の御乳の、おいしーいことわいのう。出るわ出るわの
    二人前にて、乳兄弟のそのお子は右府様のお胤にて、末はこの子のお后様 何で粗末
    にいたされましょう。
宮子  とは云うても、中々会えぬ私の淋しさ・・・・・・。
官女二 それは大きにすみませなんだ。
     ト上手より手繰りにされて来た赤子(実は人形の赤子を
(くる)んだもの)を宮子に渡す。
宮子 ヤヤ、これはッ、(ギョッとして)コリャ、子ではない。(パタリと落とす)
官女一 アラ、可哀そうに、可哀そうに皇子様を。(と拾う)
     ト宮子、それにオロオロと手を添える。今度は上手より、本物の赤子包んだものを送
     り来て、
官女二 アラくこれも人形じゃ。
宮子 (覗き込み)これは我が子・・・・・・ いやこれも人形か・・・・・・。(抱き取って)オオ、
   人形が泣きおるわ。
官女二 ほんに左様でござりまするな。(と抱き返し、仲間へ手渡しゆく)
宮子 (皆に手を差し伸べ)転合せずにお渡し下され我が皇子を、どうぞ、どうぞ皆々様・・・・・・。
   (錯乱して涙声)
    トそこへ三千代、赤子を抱いて現れ
三千代 お方様、御出産のお肥立ちもお宜しくないこと故、お気が立つのであられましょう。
   お
()っておられませ。あとは私が立派にお育て致しまする。恥ずかしながら私は、
   御二代仕えの乳母役。(と大きな胸を殊更に揺する)お父君とお子様とお二人育てる奇しき
   縁。末は一天万乗の君とならるゝこの皇子様、何で粗末に致されましょう。お心安らかに
   いらせられませ。
    ト赤子をチラリと宮子に見せ、すぐ官女に手渡す。宮子錯乱せしまゝ
宮子 赤さんを、私の赤さんを、今ひと目、今ひと目ッ。
    ト宮子、官女らの後を追って上手へ入る。
    そこへ淡海、下手より出で、上手の騒ぎを見届けるごとく上手へ行き、三千代に、
淡海 宮子もだいぶ進んだようじゃな。
三千代 お肥立ち悪く、夜もロクに
(やす)まれぬと聞き及びまする。
淡海 あれほどなるに、帝の御寵愛が
()まぬとは・・・・・・。
三千代 何でも帝のお渡りには、あの錯乱も収まるとか。
淡海 
(しよう)が進んで重篤(じゆうとく)なれば、子を取り上げて尼にして、小寺の隅に押し込めても、
   人は何とも云うまいよ。(思い入れて三千代に)な?
三千代 抜かりなく進めましょうぞ。(胸をそっと打つ)
淡海 (両手もて何かを包む形にして)
(ぎよく)さえあらば、玉さえあらば、何れ我が手でこの国を・・・・・・。
   (両手を大きく開き)三千代、わしの手にこの国をッ。
三千代 及ばずながら、妻の細工をご
(ろう)じませ。
淡海 抜かるなよ、ハハハヽヽ。
    ト二人連れ立ちて向こうへ入る。
    やおら衝立の陰より出で来し道成と老鷹、怒りをもって二人のあとを見やり、
老鷹 何と云う事じゃッ、宮子姫のお労しさ。(歯軋りの体)
道成 「作られ病」じゃったのかッ。御養女も算用ずくの親子の縁。オオ、何と悲しい。
   (激しき苦しみ。やがて思い入れあって)ナア
(じい)、宮子姫のこの苦しみ、何とか我ら
   で救いたい。チト耳を貸せ。(耳打ちする)な、どうじゃ、この相談。
老鷹 なるほど、これは妙案じゃ。表向きは帰られぬが・・・・・・。
道成 シーッ。こっちも抜かるまいぞ。
老鷹 万事はこの胸に。(胸を叩いて下手へ去る)

        (暗転)                            最上段へ  



(八場) (絵解き場)
   黒幕前、無人なれど鳥の羽音と鋭い鳴き声などしばし続き、怪しき気充つる中へ寺僧一、
   一巻を胸に抱き上手より走り出る。続いて寺僧二も走り出で、二人怖々と空を見上げて
   中央に固まる。

寺僧一 又しても妖しき気じゃ。
寺僧二 何がこの絵巻を見せまじと・・・・・・。
寺僧一 
(すめら)が家か、はた又藤原か? さすがに秘本だけはある。
     ト又も鳥の羽ばたきと獣の遠吠え。寺僧二 裏の
塗籠(ぬりごめ)で見てみようぞ。
寺僧一 そうしよう、そうしよう。
     ト二人小走りに下手へ入る。
 
             (黒幕落つ)                最上段へ




(九場) (ぬえ)現るの場)
    月明らかな夜の離宮。今は荒れて打ち捨てられし邸の庭。木立深く
(すすき)草叢(くさむら)所々に見ゆ。
    風の音、
(ふくろう)の声。官女二人が手燭を持ち、何か探す様子に下手より出づる。

官女ア お方様ア、お方様ア、何れに
(おわ)しまするや、お方様ア。(探して舞台中央へ)お方様は
    お病い
(あつ)く、近頃奇矯(ききよう)なるお振舞い。此の、人も住まぬ離宮にお預けの御身となり、
    ほんに淋しき(おん)暮らし。
官女イ 今朝ほどは少々お宜しかったのに、夕つ方プイとお出まし。一体何処へ行かれたやら
    ・・・・・、お方様ア。(探す)
官女ア オオ、このお庭の怖いこと。芒がお出でお出でをしているよ。お方様ア、一体何処に
    お出でで?
     ト急に鴉二・三羽飛び立ち、大きな羽音。
官女ア・イ キャッ、出たア、鶴亀(つるかめ)々々。
     ト二人は手燭を放り投げ、側の草叢へ飛び込み顔を覆う。
     其処へ下手よりフラフラと宮子、篠竹の枝を引き摺り出づる。
心虚(うつ)ろに、
宮子  慕えども 願えども甲斐も渚の浜千鳥・・・・・・
     ト口ずさみながら舞台中央へ。
     官女ら出ようとするところへ羽音と鳥の狂声、二人(ひる)む。其処へ向こうより男九人
     (先頭の一人は赤い被り物、後方の四人は固まって黒く、手足と見ゆる者は縞装束の四人、
     尾のような赤き
投網(とあみ)を長く引き摺り)一塊りに静かに進み来る。
     中央で投網を打ち、宮子を捉えて向こうへ運び去る。終始無言。官女二人、草叢で腰を
     抜かしいたが、転がり出でて這いずって中央へ。手を取り合い、
官女ア お、お前様。み、見やったか。
〃 イ 見ました、見ました。
〃 ア 烏天狗の群れじゃったな。
〃 イ イイヤ、おおきな
(ぬえ)じゃった。ホレ顔赤く猿に似て、体は毛物、足は虎縞、赤い尾を引き
    摺って。口からは煙りのような赤い吐息。
〃 ア そうか、あれは鵺じゃったのか。ご御報告せねば・・・・・・、その鵺にお方様が喰われたと。
    したが腰が立たぬワ。
〃 イ お前様もか、アワワヽヽ。
    ト二人しゃがんで抱き合いいる。又鳥の鋭き声。

      (暗転)




(十場) (絵解き場)                           最上段へ
    黒幕前。鳥の声・羽音続く。
板櫃(いたびつ)一個中央にあり、寺僧二人が絵巻を巻いている。
    しきりに鳥の声。

寺僧一 急げ、しかし丁寧にな。
寺僧二 承知々々。早うこの巻を仕舞わねば妖気が収まらぬ。
     ト巻き収めて櫃の蓋を取り一巻を入れると、やっと妖しき気鎮まる。
寺僧一 この巻は櫃に入れておくことにしょう。
     ト二人、上手へ櫃を運び去る。
  
      (黒幕落とす)                          最上段へ



(十一場) (九海士八幡宮の場)
     慶雲二年(七〇五年)初夏。紀伊国、九海士の里の九海士八幡宮。上手に黒木柱の小さき
     社殿、横向きに半ばが見え、中央の神庭へ
向拝(ごはい)の階段あり。小高き場所にて神庭の向こうに
     曲折した日高川の流れ見ゆ。平地の
(はて)に漁村と海が見ゆる。周りは初夏の青葉深し。
     (長閑な小鳥の声)
     上手より
巫女(みこ)二人、向拝の階を降り来る。一人は平らなる大(ざる)に木や紙で作りし人形代(ひとかたしろ)
     を載せ運び来る。

巫女一 昨日、姫様を始め九海士の人々を撫でましたこの形代、今より二人して日高川まで流し
    に参りましょう。
巫女二 アレ、待っておくれ、私に今一度(はら)わしておくれな。(追いかける)
巫女一 やれやれ、なんの穢(けが)れやら・・・・・・。夕べも里で逢うて来たのであろ?
巫女二 マアそう云いめさるな。(笊から形代を取りて身を撫でる)オオ、鶴亀々々・・・・・お前様は
    祓わんでもええかえ?
巫女一 あの人は今船じゃもの、悔しや。(遙かを見やる)お前がほんにけなるいわ。海士の捨て
    草いたづらに朽ちまさりゆく袂かなア
     ト社殿より声して、
(声)  マア、巫女たちの羨ましさよ、ホホホ
巫女一 (首を竦めて振り返り)ホレ、聞こえてしもうた。姫様も近頃はすっかり明るうなられた。
    こちらへお出での折はかなりお悪かったのじゃが、日を経るうちに御快復。ホッとして
    おりまする。
巫女二 お(とと)様とお(かか)様も見えられてお物語のそのうちに、花の笑まいがお戻りの今日此頃。
巫女一 ほんに安心いたしました。(フト下手を見やり)アレ、中納言様が登ってお出でるわ。
巫女二 アレアレ、あんな(なり)をして。
     ト二人で下手を見やるうちに、紀道成、下手より
川並股引(かわなみももひき)にて来たる。
道成 姫様にはお変わりなきか。
巫女一 (頭を下げ)御機嫌よく入らせられまする。
道成 それは
重畳(とようじよう)。(懐から麻布の巻き物を取り出だし)姫様、やっと差図(さしず)が出来ましたぞッ。
     ト社殿の方へ語りかける。社殿より宮子と宮子の父母(早鷹と渚)が出で来る。
宮子 中納言殿、よう入らせられました。
道成 (笑って)もうその呼び名はお止め下され。(跪き)退転致しましたる上は、道成とのみお呼び
   願わしゅう。(一礼す)
宮子 ほんにそなたにはお礼の申しようもなく・・・・・・。皇子と引き離され、辛き目に遭いおる
   わらわを連れ来たって、此処へお
(かくま)い下されし有難さ。こうして又父母とも暮らせる日々
   が来ようとは。( 目頭を拭う)これも偏にみ仏のお蔭かと。
    (懐より黄金の仏を取り出す)
道成 オオ、あの折に、九海士の鵺に呑まれなされた折柄に、ようこそ身につけてお出でゝあり
   ました。たしかにそのみ仏のお蔭でござりましょう。 御覧下され、(差図を地に拡げる)
   このようにみ寺の差図が出来ました。
(かたじけな)くも主上より「国母とならん者の寺なれば、立派
   なものに」の
御諚(ごじよう)なれば、「勅願寺」の扁額を(かか)ぐる寺となりましょう。
   費用は総て
公家(こうか)沙汰(さた)にて充当(じゆうとう)され、番匠(ばんしよう)大工寮(もくりよう)工匠をもて致さるゝ事に決まりました。
   (熱心に)寺域は連子窓の付く複廊にて囲み、此処が中門にござりまする。(扇にて指し示す)
   又此処が塔、此処が金堂。この金堂にそのみ仏を安置致す所存にござりまする。
宮子 オオオオ、有難い事にこざりまする。のう、
(とと)様、(かか)様、皆々様。
父母 勿体ない事にござりまする。
道成 お方様にも主上より内々「病いなればその寺にて気永に養生致すように」との仰せ言を
   頂戴致しました。そのみ仏と共にみ寺に住まわれますれば、お悩みもいつかは消え失せ
   ましょう。
宮子・父母 重ね重ね有難いことでござります。
道成 (差図を巻き)さて私は、これからみ寺の柱となる楠の木を、山より出だす仕事に参ろうと
   存じます。
皆   エエ。
道成 木は
杣山(そまやま)より伐り出だし、上流(かみ)より管流(くだなが)しを致しまする。
   それを
中流(なか)網場(あば)にて取り集め、いま(いかだ)に組んでをりまする。そこより川下(かわしも)の最後の
   川筋をば、是非とも私が流したい。筏流しを致す所存にござりまする。
    (手振りにて流れに竿さす仕種)
宮子 それは馴れぬお方には大それた事。
道成 イヤ、私はこの国に育ちし者。小さき折には川並衆の子供らと、さんざ筏の上にて遊びし
   者にござりまする。
   (笑う)ではひと先ずこれにて。
宮子 くれぐれも気をつけて・・・・・・。
道成 有難う存じまする。(一礼す)
巫女一 私共も形代流しに参るところ。では打ち連れて・・・・・・。
     ト三人一礼し、下手へ去る。
宮子 父様、母さま、御覧下さりませ。(遠くを指差し)あの川のあちら側に、広い野がござりま
   しょう?九海士の村のすぐ北に。
父  アア、あそこじゃな。
母  オオ、人が大勢動いてござるわ。
宮子 あそこに大きなみ寺が出来るそうにござりまする。
父母 楽しみなことじゃ、有難いことじゃ。
     トそこへ向こうより、賑やかな鳴物の連衆が、赤
(たすき)(すげ)笠の踊り手
     を従え、踊りながらやって来る。
囃子(はやし)方一 皆様方、我らは隣村より参りましたる踊りの連衆にござりまする。今日は
     中納言様より、是非こちら様を御慰めいたすようにとの御下命にて、打ち揃い参りま
     してござりまする。(つたな)い者共ではござりまするが、祭りに踊りまする「けほん
     踊り」を御披露いたさばやと存じまする。(揃って一礼)
父    それは重畳。中納言様は何ともはやお優しいお方じゃな。
囃子方一 ソーレ、踊れや踊れ。
     ト宮子と父母が社殿の縁に退くと、神庭に踊りの輪が出来る。鳴物は
(かね)
     笛、鼓、それに赤塗りの大
瓢箪(ひようたん)。 

    チンポンテンポン

    春は花、秋は夜すがら月に踊らん

    ヒョヒョラヒョン
    デンツクデン

    田舎へお下りある時は
    (ひさご)なりとも置いてゆけ
    小瓢なりとも置いてゆけ

    ヒョヒョラヒョン
    チンポンテンポン

    柳は緑、花はくれない
    折々風の吹く時は
    タンタンカラリと打ち鳴らす

    ヒョヒョラヒョン
    デンツクデン

   
潮瀬(しおせ)の風の寒い夜は
    
(しび)が遊びに来るわいなア

    チンポンテンポン

     トそこへ老鷹と九海士の男ら、下手より出で、踊りの輪に加わる。

    春は花、秋は夜すがら月に踊らん

    ヒョヒョラヒョン
    デンツクデン

父 オオ、九海士の者らじゃ。
母 オオ、我らが村人じゃ。
     ト踊りおのずから終わり、
老鷹 姫様、その後御無事で何よりに存じまする。(跪き一礼す)
九海士人ら 何よりに存じまする。(一礼)
宮子 オオ、その折はお手数をかけました。
老鷹 お戻りなされてよりは、前浜の
(すなどり)も殊の外の上りよう。
   み仏と姫様のお二方はこの村の宝にござりまする。
宮子 それは何より。み寺も近々出来(しゆつたい)の運びなれば又何かと手も借りよう。よしな
   に頼みまする。
九海士人ら 皆喜んで御奉仕を。
     トそこへ仏師二、三人を引き連れて僧
義淵(ぎえん)、向こうより来たる。踊り衆、
     下手へ入り、九海士人らは控える。
義淵 宮子姫様、御無事におわしまするや。
     ト宮子、階を駈け下り、
(はだし)にて義淵の元に、
宮子 僧正様、何故ここに?どんなにかお会いしたかった事か・・・・・・。(跪く)
義淵 マアマア、お立ち下され。(手を取り)御無事なお姿を拝し、これほど嬉しい事はござり
   ませぬ。都では我らの治療の甲斐もなく、御病い
(あつ)うならるゝばかり。
   じゃがこの国へお戻りなされしと聞く頃から、御快復の御様子を風の便りに聞き及び、
   やはりお国の風が御身によろしいようにござりまするな。実は愚僧がこの地へ参りまし
   たは、近々出来(しゆつたい)致しまするみ寺の、御本尊を造る仏師に撰ばれ、かように小仏師共
   を引き連れ、都より下りましてござりまする。
宮子 オオオオ、左様にござりましたか。有難い事にござりまする。
義淵 その仏は、(小仏師が仏画を拡げる)かようなる八尺の大観音、楠は霊木にござります
   れば、それにて大き千手観音を造り、その胎内に姫様のお守り仏なる一寸八分のみ仏を
   お納め致す所存にござりまする。
宮子 エエ、そのお
胎内(はら)にこのみ仏を?
     ト黄金の仏を取り出だす。父母も老鷹も来たり、仏画を眺める。
皆 八尺の観世音とな、有難いことじゃ。 
     ト皆寄り来る。
義淵 その大観音は北向きにお立て致し、密かに北の都におわしまする主上と皇子様をお守り致す
   み仏となすつもりにござりまする。
宮子 オオ、何と嬉しき有難きお考え。何事もよしなにお計らい下されませ。
義淵 ところで、寺域の縄張りを奉行致されまする中納言殿は何れに?
宮子 実は先ほどお見えになり、御用材の筏流しに出掛けられました。
老鷹 ナニ、筏流しとな?
義淵 御自身でなさるおつもりで?
父  網場より筏を組み、下流のみ寺の岸まで流さるゝおつもりらしゅうござりましたが・・・・・・。
老鷹 それは何とも危険過ぎる・・・・・・。
九海士一 あの
下流(しも)には「お(ひざ)の岩」がある。あの岩は川並衆にも難所にて、ましてや
     今時の
水嵩(みずかさ)・・・・・・。
老鷹 お止め申さねばッ、皆の衆、川筋まで急げッ。
九海士人ら ハッ。
     ト向こうへ駆け出す。
宮子 (不安げに)もつと強くお止めしなかったのが悔やまれる。そのような危険なところを
   何故御自身にて筏流しなどなさろうと・・・・・・。
義淵 御用材に御自身の思いを込めようとされたのでは?
老鷹 この里から姫様を都へお連れなされた事を、時々御自身の罪と申されておわしました。
   その罪を
(あがな)うために、()えて危険な役を引き受けられたのではないかと・・・・・・。
宮子 道成様・・・・・・。(崩れ折れる)
老鷹 九海士の者らが駆けつけましたので、何とか間に合うかと・・・・・・。
宮子 わらわもこれから川筋へ参りとうござりまする。
     ト皆「我らも」「わしらも」と向こうへ駆け出す。
      (その間に舞台廻る)                    最上段へ      




十二場(三百瀬の場)
    三百瀬(みもせ)という中洲。前面は川の流れにて、後方は低き土手。草所々に茂る。
   (川の音)土手の奥、上手より宮子と巫女二人上がり来て、呼ぶ。

宮子・巫女ら「道成さまア」「中納言さまア」何れにおわすやア」
     ト皆衣服汚れ、髪乱れて、疲れし様。土手に座り、
巫女一 とにかく、難所のお膝の岩は、見事に乗り切られたのです。したが筏の長き尾が岩に当た
    って、
()い綱の藤蔓が切れたようにござりまする。そのまゝお姿が見えなくなってし
    まいました。(泣く)
宮子 何と・・・・・・。(顔を覆う)
巫女二 しかし水練の達者なお方故、御無事に違いないと、川並衆が申しておりました。
宮子 そうありたいのう。
     トそこへ向こうより、九海士の男らに差し上げられ大の字の道成、シズシズと運ばれ
     来る。宮子らそれを見て、
宮子 はや事切れかッ。
     ト男ら宮子の前に道成を置き、無言にて一礼し去る。女ら取り
(すが)り、魂呼(たまよ)ばいす。
女ら 道成さまーア、中納言さまーいノォ。
     トそこへ老鷹も下手から走り来て、
老鷹 さては
果敢(はか)なくなり給うたか。
宮子 中納言様、わらわを置いて何処へ行きゃる・・・・・・。
    ト道成を抱えると、懐から転がり出づる物あり。手に取れば振振なり。
宮子、茫然とする。
老鷹 道成様はそれほど迄に姫様を・・・・・・。
宮子 ちゅうなごんさ、ま・・・・・・。
     ト宮子、気を失う。
老鷹 (宮子を支えて髪を撫で)この髪こそ総ての始まりじゃったなア。
巫女一 (振振を拾いて)これは何でござりまする?
巫女二 
玩具(おもちや)のようじゃが・・・・・・。
老鷹 これは姫様と道成様を結びし物じゃ。そこに何かゞ巻かれておろう?
巫女一 エエ。
老鷹 その細い細いものが、このお二人を繋いだのじゃよ。

   (暗転)  



十三場(絵解き場)
     黒幕前。寺僧一、中央で書架に絵巻を掛けて眺めいる。扇子で指しながら、

寺僧一 世に名高き道成寺、今は安珍・清姫のお話で名高いが、しかし元を辿ればこんな
    お話がありまして、(絵解き風に少し節をつけて)そーもそも、ころーは白鳳・・・・・・
    持統の
(みかど)の十一年。髪の長い、御娘(おむす)がひとり、ではない、御姫がひとりウウ、
    うまくいかぬな、お住持に絵解きの
台詞(せりふ)は頼みましょう。
    此処まで見てきたところでは、どうやら紀伊の道成殿のご尽力にてなった寺。
    
道成寺(どうじようじ)とは道成寺(みちなりでら)なのですな。藤氏(とうし)繁栄のその蔭に、
    咲いて散ったか一人の女。イヤイヤ、マダマダ、決着はついておらぬ。この後にまだ
    一巻があるからに。
     トその時、上手から僧、
寺僧二 大変だ、大変だア。
     ト絵巻の千切れし一巻ヒラヒラ持ち現れる。
寺僧一 何事じゃ、何事じゃ。
〃 二 終わりの巻は切れておる・・・・・・。(最後のところを見せる)
〃 一 それは惜しや。切れ端もござらぬか。
〃 二 いくら探せど見付からぬ。
(ほこり)鼠糞(ねずふん)ばっかりじゃ。
〃 一 切れた所はどんな絵じゃ?
     ト二人で調べる。
〃 二 千切れたところは・・・・・・。
〃 一 ヤヤ
夜叉(やしや)じゃッ、夜叉の女が鐘に乗り・・・・・・。
〃 二 では、やはり清姫か・・・・・・。
〃 一 イヤイヤ、どうも宮子姫。
〃 二 エエ。
〃 一 オヤ、この中より、微かに聞こえる  女の声。笑い声じゃ。
     ト声ダンダン大きくなり、高笑いと となる。
〃 二 オオ、怖や怖や、鬼か蛇か。
     ト天を仰ぐ。
〃 一・二 怖や怖や。 
     ト二本を巻き、下手へ走り込む。書架倒れ、切って落とした黒幕その上へ被さる。



                                     最上段へ

十四場(夜叉の場)
     和銅七年(七一四年)春。桜の頃の道成寺。青や
()の色美しく、勅願寺の威容を持つ寺の
     境内。下手奥に金堂の
(いらか)と白壁。太き柱少し見える。中央は寺の庭にて、上手少し奥に
     鐘楼・釣鐘あり。鐘楼の前面の階見ゆ。庭内には満開の桜チラチラと散りかかる。向こう
     より
案山子(かかし)を抱き、歌いながら狂気の宮子現れる。
     
面窶(おもやつ)れすれど豊かな髪は束ねられている。

    日がないちにち 沼のへり
     探して 探して 駆けめぐり
     つばな つばな
     みつけよ つばな
    つばなによく似た草がある

    ト歌う。

   だーれにも奪られぬやうに
   だーれにも分からぬように

     トフラフラと廻る。
宮子 そうじゃ、彼処がよいワ、鐘の中、鐘の中。
     ト案山子を抱いて鐘楼に登る。 下手より義淵と小僧二人出で、それを見付けて、
小僧一・二 アレ、お危のうござりまする。
     ト二人急いで鐘楼へ登ろうとする。
宮子 (大声で)来てはならぬ、小僧共ッ、寄ってはならぬ。
義淵 構わぬ、お押えいたせ。
小僧一・二 ハハーッ。(二人して宮子を押える)
宮子 離せ、無礼者ッ、わらわを何と心得るッ、先の后なるぞ、
退(すさ)りおろう。
小僧一・二 ハハーッ。(と云いつゝも楼上で押えいる)
     ト義淵、鐘楼に向かい、
義淵 お方様、義淵にござりまする。お降り下さりませ。お危のうござりまする。
宮子 僧正様、お助けを。無礼者が又わらわの子を
()りに来おった・・・・・・。
義淵 とにかくお降り下さりませ。愚僧がしかとお
(かくま)い致しますほどに・・・・・・。
宮子 ほんとじゃな?きっとじゃな?
義淵 きっとでござる。(目頭を拭う。独りごちて)道成様のおなくなりの折より、又お病いが
   ぶり返し・・・・・・。み寺は出来上れども、道成様もお方様のお心もおわさぬ・・・・・・。
   何と情けない・・・・・・。
     ト宮子、小僧二人に抱えられて降り来る。しっかりと案山子を抱いている。
義淵 皇子様をお預かり申しまする。必ず誰にも見付からぬ場所にお匿い致しまするほどに。
宮子 頼みましたよ。(案山子を義淵に渡し微笑む)
     トそこへ尼たち二人来たり、
尼一 お方様、此処にお出で遊ばしましたか。
尼二 アレアレ、お裾が汚れてしもうて。
     ト宮子の裾をはたく。
尼一 又何処ぞの田の(くろ)より、去年(こぞ)の秋の(こぼ)たれ物をお拾いに・・・・・・。
宮子 子が眠っておったのでな、そっと抱いて来たのだよ。
尼二 マアマア、左様で。とにかくお召替えをしなくては・・・・・・。(はたく)
尼一 参りましょう。
尼二 (案山子を抱きし義淵に)お上人様、お手を煩わせまする。(一礼)
義淵 (尼一に連れ行かれる宮子を見ながら)よいのじゃよ、これも又我が
(むろ)に入れて
    やりましょう。これで三・・・・・・四人目の
案山子(あんざんし)殿じゃ。(堪らず抱きしめる)
尼二 (目頭を拭い)皇子様がお側におわさぬお淋しさを、どのようにいたしましたらお慰め
    出来るのでしょうか。
義淵  お方様のお病いには、皇子様に一度お会わせするのがよろしかろうと存じまする。
    それ故先日、紀伊の国司より
()を差し上げるよう働きました。このみ寺も、遷都(せんと)
    御用のありし間は、中々工事も進まなんだが、此処に来てようよう美しく整いました。
    近い内に落慶法要の手筈にて、それにこと寄せ密かに皇子様をお呼びしてお会わせせん
    と
(たくら)みましたが、さてお取り上げになるかどうか・・・・・・。
尼二 文武帝お隠れの後は、帝のお母上様(元明帝)が御位に()かれましたが、
首皇子(おびとみこ)
   はやはり
海人(あまびと)のお子故、立太子も覚束(おぼつか)ないのでありましょうか。
義淵 さアて、わしには都の事は分からぬ。この寺の住持になりて
(あまね)く人の心を安んぜんと
    思うばかりじゃ。
尼二 ほんに
都人(みやこびと)は我が門の弥栄(いやさか)のみを願いお方様お一人さえ救えざる有様。
   嘆かわしき事にござりまする。(フト向こうを見やり)アレ、野末に何かキラキラしきもの
   が・・・・・・、オオ、行列じゃ、上人様、あれは?
義淵 (向こうを
見霽(みはる)かして)左様、行列のようじゃな、ハテ。(小手を翳す)
尼二 一体どなたのお出でなのでしょう。
義淵 この寺に来るようなが・・・・・・、愚僧は何も聞いてはおらぬ。
尼二 とにかくお出迎えのお支度を。皆様、々々、お客様ですぞ。
     ト呼びに入る。向こうより貴人の
輿(こし)の簾を下したるが、供を従え出で来る。
     舞台下手にて輿止まり、中より少年の、若々しき、首皇子現れる。
首皇子 僧正様、お久しうござりまする。お会いしとうござりました。
義淵 オオ、皇子様であられましたか。(手を取り合う)御立派になられましたな。
   この寺の落慶にどなたかお一人をと、暗に皇子様をお呼びせんと解を出だしましたのじゃが、
   こうも早うお出でがあろうとは・・・・・・。
首皇子 実はそのお話を聞き、矢も楯もたまらず上人様にお会いしとうなり、忍び出でて参り
    ました。
義淵 ハハハヽヽ。それではまるで女子に会うようではござらぬか。
首皇子 ハイ、女子に会うように・・・・・・でござりまする。実は母上も密かにこのみ寺にて病い
    を養うておらるゝと聞き及びまして・・・・・・。
    トその間に、上手・下手より、僧・小僧・尼ら現れて皇子を迎える。
一同  皇子様、ようこそお越しなされませ。
首皇子(周りを見廻し)見事に出来上がりましたなア。立派なみ寺じゃ。
義淵 この金堂には、お母上様の金のみ仏を胎内仏とする
鞘仏(さやぼとけ)を、愚僧が造りお納め致しおり
   まする。後ほど御ゆるりと御案内致しましょう・・・・・・先ずはお母上様をお見舞い遊ばしませ。
尼一 此処へお連れ申しましょう。ご一緒にお花見をいたされませ。
     ト尼は皆と共に上手に入る。義淵と皇子二人となり、
首皇子 上人様がこのみ寺に参られて後、都は淋しゅうなりました。お弟子の
行基(ぎようぎ)
    からは色々お教えを受けておりますが、行基法師は「仏は先ず民を救うために此の世に
    お出でなされたのじゃ」と、常々おっしゃってお出でです。
義淵  行基法師とな、ハハハヽヽ、あれには「法師」の名がよう似合うな。
首皇子 このみ寺は、
道成寺(みちなりでら)と名付けられましたそうな。その(いわ)れは如何の事に
    ござりまするや。
義淵  このみ寺は、紀道成殿が身命を
(なげう)ちてお造りになられたのじゃ。愚僧がそのお名を
    頂戴し名付けました。尤も漢読みに致し「
道成寺(どうじようじ)」とさせました。
    しかしそんな
行立(ゆくたて)も、お母上様は御存知ないのじゃが・・・・・・。
首皇子 それは何故にござりまするか。
義淵 道成殿が御用材を筏流しにさるゝ折、川に落ちて亡くなられた。その驚きでお母上は、
   道成殿をお忘れになってしまわれた・・・・・・。
首皇子 何と哀しい・・・・・・私は母に会いたいが、少し怖い。私をもお忘れではないかと。
    生まれてから十四年、一度もお会い致さぬお方。寝ても醒めても恋しきお方でありました。
    父帝を失い、七年前に御祖母様(元明帝)が御位にお
()きになられし後は、もはやこの
    国は
右府(うふ)の思うまゝ。私はもう、都に未練はござりませぬ。これからは病いの母と、
    此処で暮らそうかと・・・・・・。
義淵 エエ。
首皇子 此処なれば又、上人様の御
謦咳(けいがい)に接する事も出来まするし・・・・・・。
     ト話す内に、尼一に手を引かれて宮子、上手より出づる。
首皇子 アッ、母上様・・・・・・か。
尼一 お母上様にござりまする。お方様、皇子様ですよ。御立派になられた首皇子様ですよ。
     ト宮子オズオズと近づく。首皇子その手を取る。
首皇子 母上様、お会いしとうござりました。
     ト宮子、少し疑い深げに尼一へ、
宮子 まことの我が子なるか。
尼一 まことのお子様にござりますよ。あれから十三、イエ十四年におなりですもの・・・・・・。
   サアサア、この花の下で、たんと積もるお物語などなされませ。
    ト一本の桜の下へ、敷物・
(とう)を持ち来たり、皆一礼して去る。
宮子 左様、はや十四年か・・・・・・。都では母の事を何と聞いておりゃったか。
首皇子 類いなく豊かな
御髪(おぐし)を持つ美しき御方と・・・・・・。
宮子 それから?
首皇子 
紀伊国(きのくに)のお生まれで。その国は海のある豊かな国じゃと・・・・・・。
宮子 それから?
首皇子・・・・・・お母上はもとは・・・・・・水に潜いておられし人と・・・・・・。
宮子 それは誰から?
首皇子 父帝より密かにお聞き致しました。
宮子 ・・・・・・そうか。
首皇子 それで、それで、都にはおられぬ人と・・・・・・。(手で顔を
(おお)う)父帝は最後
    まで母上の事をお忘れではありませなんだ。
宮子 お
(かみ)はほんにわらわの事を・・・・・・。
     トしばらく泣く。やがてキッと顔を上げ、
宮子 もしそなたがまことの我が子なれば、母の願いを聞い呉れるか。
首皇子 ハイ、必ずお心に添うように致しまする。
宮子 では、この鐘楼に登り、鐘の下に立ちゃれ。
首皇子 ハイ、母上様。
     ト皇子、鐘楼に登って、鐘の下に立つ。
首皇子 こうでござりまするか。
宮子 そうじゃ、そうじゃ。
     ト宮子、飛蝶のように鐘楼に登り、やにわに釣鐘の
金綱(かなづな)(ゆる)め、
     釣鐘 を
(おと)す。大音響。
首皇子 (中より)母上様、私は母様の子にござりまする。 
宮子   そうじゃ、そうじゃ。やっと我が子が戻った。もう何処へもやらぬッ。
    何処へもやらぬぞッ。(両手で鐘を抱く)
首皇子 母上様、私は母様のまことの子、母様のまことの子にござりまする。
宮子 我がものじゃ、我がものじゃッ。
     ト大音響に驚き、皆走り出づる。
皆  (指差して)アレ、彼処(かしこ)に彼処に。
     ト皆鐘楼の下に寄り、
皆   大変じゃ、大変じゃ、皇子様を鐘に閉じ籠めてしまわれたア。
義淵  あの鐘を持ち上ぐる者はおらぬか。
承仕(しようじ)法師は何れに?
僧一  
生憎(あいにく)大力の法師を川向こう迄遣いに出してしまいまして・・・・・・。
皆   困った、困った。
     ト鐘楼の周りをぐるぐるめぐる。
宮子 (上より)この子は我がもの、誰にも渡さぬ。渡しはせぬッ。
     ト其処へ、向こうより、美々しき行列やって来る。下手へ並びて止まり、輿より貴人
     降りる。傍らの従者口上して、
従者 
太政官(だいじようかん)よりの使者にござりまする。この度主上より首皇子様に、立太子
   の
宣旨(せんじ)が下されました。急ぎ都にお戻りあるように、との由にござりまする。
     ト使者の貴人、奉書を義淵に渡す。義淵受け取り開き見る。
義淵 何と・・・・・・。皇子様が
春宮(とうぐう)に、皇太子に立たるゝのか。お方様、お方様。
   かような宣旨が都より参りましたぞッ。御覧遊ばしませ。
     ト鐘楼の方に向けて奉書を見せる。宮子、鐘楼より降りず、声のみにて、
(声)
(おびと)が春宮に決まりしとな?我が皇子が春宮に・・・・・・。わが子が皇太子に・・・・・・。
     ト皆、楼を取り巻きて見上げる。楼上より又重々しき声。
(声) 義淵殿、これは誤りではござるまいな。又我が子を取るためではないのか。
義淵  太政
官符(かんぷ)なれば間違いはない。義淵が請け合いましょう。
    皇子をお出し下されませ。
     ト皆、祈る形に楼を見上げる。 楼上より又声。
(声) 母の力にて、皇子を出だしまする。皆様、ご案じめさるな。
     トやにわに、鐘の
竜頭(りゆうず)に現るゝ宮子姫。髪もおどろに夜叉(やしやの姿なり。
宮子 我は仏法護持の神、
天夜叉(てんやしや)とならん、又地夜叉(ちやしや)に、はたまた虚空夜叉(こくうやしや)たらん。
   
南無(なむ)阿毘羅吽欠(あびらうんけん)、阿毘羅吽欠蘇婆訶(そわか)、エイーッ。
     ト鐘に長き髪を巻き付けて締めつけバーンと鐘を割る。鐘は光の
微塵(みじん)となり、
     辺り一面燦めき、飛散。中より輝く首皇子、
束帯(そくたい)して楼上に立つ。
    (妙なる
(しよう)の音)
皆  オオ、オオ、皇子様、皇太子様。 
     ト首皇太子、鐘楼の階を二、三段降り立つ。光り一点に集まる。皆見上げて、
義淵 春宮様、お目出度う存じまする。
一同 お目出度う存じまする。
     ト鐘楼上の宮子姫は夜叉の姿にて柱巻きの見得。それを柝の頭に。

               
 (幕)

 
関連サイト

 和歌山 道成寺 http://www.dojoji.com/

 かみなが姫の物語 http://www.dojoji.com/miyako/index.html

 藤原朝臣宮子 http://www.asahi-net.or.jp/~SG2H-YMST/miyako.html

 宮子姫伝説   http://www.asukanet.gr.jp/cha-san/densetsu.htm

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