あらすじ
道成寺は安珍・清姫の話で名高いが、実はそれは中世以後出来た話であるらしい。江戸の頃、道成寺の絵解きをする僧が、ある日いわくありげな絵巻を寺の蔵で見付ける。埃だらけの絵巻を開いてゆくと、そこには不思議な話が描かれてあった。
七世紀後半、白鳳の頃の話である。藤原京の宮中の木に、雀が不思議な巣をかけた。長い女の髪の毛が、その巣より出て来たのであった。巻き取って春宮の御覧に供すると、その余りの見事さに、この髪の女人を召したいと宣う。早速全国に遣いが出される。紀道成も自国の海村より美しい髪の乙女を見付ける。どうやらその娘が黒髪の主であるらしかった。娘の髪には奇しき物語が絡んでいたからである。
娘は海女の子で、ある日母が潜って拾って来た黄金の小仏像の霊験で、丈成す黒髪を得たのであった。その仏は唐より我が国へ贈られた宝で、難破した船が積んでいたものだったことが分かり、国へ返すこととなり、娘も宮中へあがることになった。春宮(後の文武帝)は殊の外この娘(宮子姫)を寵愛する。宮子姫は嬪や官女の嫉視と悪意にさらされ、皇子誕生によってそれは頂点に達し、宮子は徐々に神経を病んでゆく。
右大臣藤原不比等にも、「玉」さえ手に入れば宮子は邪魔でしかなかった。
ようやく自分の愚かさを知った道成は、里の男たちに宮子を救出させる。故郷で養生し元気を取り戻す宮子。
帝や道成、僧義淵の労りによって黄金仏を祀る寺が出来るという時、用材の筏流しで道成は水死する。そこには密かな愛の想いがあったのだが。ショックで病いがぶり返す宮子。
新しい寺(道成寺)で養生する日々、宮子の元へ息子・首皇子が十四年振りに会いに来る。我が子を独占したさに、宮子は皇子を釣鐘の中に閉じ込める。折から皇子の立太子の宣旨がもたらされる。母は夜叉となり、鐘を微塵に砕き、皇子を鐘より出だす。其処には光り輝く皇太子・首の姿があった。人々に祝福される我が子(後の聖武帝)の姿だった。
絵巻を見てゆく僧二人は、妖気を発するこの絵巻に悩まされながらも、狂言回しとなりこの絵巻を紹介してゆくのである。
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